「完全で安心な地下室」はやはり正攻法でつくるのが一番!
安全で安心な地下室ができるまで・・・
1998年の実例からも何ら変わらない作り方がわかる
(住宅地下室編)
はじめに
1982年に8畳×2室という住宅の地下室(当時は「住宅に地下室をつくる」という概念はほとんど無く、法制化もされていなかった=地下室の面積緩和として法制化されたのは平成6年)を初めて手掛けて以来、やがて来る「地下室の時代」を先取りしてきた。
その時代は東孝光氏が「塔状の自邸」や安藤忠雄氏が「住吉の長屋」でデビューしたころで、あちらこちらで鉄筋コンクリート打ち放し仕上げの住宅や建物が雑誌を賑わせる頃だった。
かく言う私もご多分に漏れずその一人で、憧れの「RC打ち放しの自邸」でデビューというイントロとなる。
「RC打ち放し仕上げ」といえばコストが抑えられる象徴として当時から注目の質感で、恐れることもなく、迷うこともなく安藤忠雄氏の住吉の長屋の設計図面を隈なく研究して臨んだものだ。
RC造は構造フレームとして自由な架構が可能なので、自邸は3.6mの吹抜けをL型に囲むキャンティレバー(片持ち梁)や大型サッシほどの出窓をRCで形作り、取り付くサッシもコンクリートに直接打ち込んだり、トップライトガラスも枠なしで直接取り付けるなどの自由奔放な作りだった。
また、法律制限いっぱいに建てた自邸は地下室(当時「地下室」は認められておらず、「納戸」としないと申請が通らなかった)付でかなり大胆な作りである。
そうした初期から自由奔放なかつ形態表現や低価格を調査研究したプロセスではビルやマンションにも「地下室」を提案しながら、さらに24畳、30畳、45畳、60畳と歴史を経る毎に大型の地下室に挑戦してきた。
これだけ多くの地下室を手掛けたゆえに、今最も優れた空間としての地下室をここにご紹介しようと思う。
これまでの実践経験も含めたいろいろな調査研究や検査で立ち会った結果での結論は、やはりRC造で「完全で、安全な地下室」はやはり正攻法で造るのが一番良いと確信するに至る。
それは地下室を作ってみれば誰でも判ることだが、昔からの先輩たちが「一般のビルの基礎を造る工法、その類似形の地下室を造る工法」として認知しているRC造」なのだ!
約100余年の歴史が物語るほどの工法は理論ではなく結果としての「潰れませんよ!絶対に安心ですよ!」がそれなのです。
地下室には上記のように現地での鉄筋加工とコンクリートを流し込む構法のほかに、コンクリート工場で成形生産された「コンクリートの箱部品」を地下で組み立て周囲に土を埋め戻したものや「鉄板加工の箱部品」を組み合わせながら防水工法や結露対策や断熱処理を採り入れて鉄板の箱を地下に埋め込んだものなどにいろいろな工法がある。
そうした種類の中でもっとも大切なこと地上部建物の重さに耐えながら堅牢な強度で支えながら、かつ上部プランに拘束されない形状で広さや天井高さを自由に設計できるメリットがあるかないかである。
なので、RC造地下室は企画設計が正攻法であればそれほど難しくない。
が、確かに奥は深いので研究や経験を必要とするのは品質の向上への展開は重要である。
そして居心地のよい永年建物を狙うならば経験豊富な設計事務所に「大地に安定する地下室とさらにその地下室に整合する地上建物との一体建物」を企画設計してもらうことをお勧めする。
つまり、良い建物は地下から地上に至るまで総合的に建てることで永く活きるわけだ。
今、カビだらけの地下室でお困りの方も・・・
今、使われていない地下室をお持ちの方も・・・
今、土地の有効利用を考えておられる方も・・・
今、お仕事上地下室を考えておられる方も・・・
今、地下室のお悩みを抱えられている方も・・・
ぜひ、以下を引き続きご覧ください。
1998年12月文責:小杉卓(一級建築士)
おもな手順(作り方編)
- 整地
- 竪穴を明ける
- 敷地奥より掘削開始
- 道路側まで掘削
- 掘削終了
- セパレーターの溶接
- 断熱材を貼る
- 配筋と型枠の建て込み
- シート養生と型枠の支持
- 下階壁の中へ配筋
- コンクリートの打設
- 基礎の立ち上がりを造る
- コンクリート打設面のチェック
- 床仕上げに関わる下地の施工
- 床面の仕上げ
- 東のドライエリアの完成
- 西側のドライエリアの完成
- 地下室の完成
手順とポイント解説
1.整地
まずは既存建物を解体撤去処分し整地を済まよう。
次に、地質によっては設計内容や施工法が変わるので事前に地中深度10m程度までのボーリング調査:20~35万円程度(所要1~2日)を実施して地盤データを確認する。
次に計画建物の配置や基準レベルを設計図で書かれた通りに原寸に拡大して敷地周囲の固定物にマーキングする(所要1~2日)。
敷地上にはこのマーキングに従って地下室や基礎の範囲・大きさが描かれる。
地下本体の一部に建物が載る場合は「不同沈下」が発生しやすいのでキチンとした企画設計をしないと上に載った建物が傾いたり亀裂が走ることがある。
企画設計はとても大事な作業です。
2.竪穴を明ける(=オープンカット工法)
地上に引かれたラインに従ってH型レールを建て込む。
地中に対して直径20cm程度のオーガードリルで事前に約5mほどの竪穴を明ける。
その穴の中に5~6mのH型レール15×15cmを挿入する。
1m以下間隔にてできるだけ正確に垂直に建て込む。
造ろうとするドライエリアを含む地下室外壁の全周に対してこれを行う(所要2~3日)。
敷地50坪に対して地下室は建ぺい率に算入されないので境界線ギリギリまで造ることができる。今回の地下室はドライエリアを含め70畳・35坪程度の地下空間を造る。
3.敷地奥より掘削開始
敷地奥より掘削開始。レールとレールの間から切り土が見え出す。
矢板と言う土の崩壊・崩落を防ぐための板(厚30mm)をこのレールとレールの中に挟み込んでいく。
地下工事の約2ヶ月間は悪条件の自然気象に対応しなければならないので慎重さが必要だ。
おおよその底になる設計深さ(現在の地表面下4.0m)まで機械で掘り進む。
境界や隣接建物ギリギリでも30~50cm程度離れれば施工可能。雨季の時期はなるべくずらしたいところだ(所要5日)。
掘削残土の運搬ルートなどは見積りにかなり影響するので事前確認は重要。
4.道路側まで掘削
掘削機は道路側に退避しながら毎日掘り続けます。
底になる部分は正確な深さを確認しながら人が丁寧に土をさらっていきます。
この部分は人力に頼らねばなりません。
掘り過ぎてはいけません。
また、足りなければ再施工になるので慎重さが必要。
外部型枠の外側を掘る「余掘り」は「掘る・捨てる・土を買う・埋め戻す」ことで莫大なコストアップとなるので見積り時に必要性からチェックする。
外防水を理由に業者はこのあたりを工事金額に入れたがるので要注意。
100万円の無駄な見積り内容などあなたにはわからないはず。必要か不要かの判断がコストアップの分れ目。
5.掘削終了
掘削作業が終了した。
ドライエリアがある場合は雨水が降り込むので基礎のさらに下に雨水集水のピット(深さ1m)を設ける。
また、地階にトイレやキッチンがある場合も同様。
(この汚水ピットは防臭処理が必要)これらピットの中には必ずポンプは交互運転・故障対応用に2台入れるのが鉄則。
またこれらはすべて埋め込まれてしまうので事前に配管や配線をしておかねばならない。
地表面下4mよりさらに1m下の埋設工事。
設計内容にしたがってキチンと所定の位置に電気的・設備的な埋設処置を確認し、これらの上に栗石や砕石の地業が施工される。
6.セパレーターの溶接
いよいよ地下室の床底にあたる位置まで準備が整う。
前項5.で敷いた割栗・砕石転圧の上に捨てコンクリート(厚3~5㎝程度)を打ち均す。
2項で入れたレールとレールの間に内型枠を引き寄せるためのセパレーター(このセパレーター長さが壁の厚みになる)といわれる金属棒を設計にしたがって規則的に溶接する。
この金属棒は現場打設コンクリート工事では必須ながら漏水の原因を作りやすい。
また、コンクリート打設時のコンクリート自重圧力によってセパレーターがはずれ型枠がパンクする場合もあるので入念なチェックが必要。
とにかくデリケートな部分ゆえ要注意。
7.断熱材を貼る
6項のセパレーターの溶接完了後、外側の土に接する矢板の内側に断熱材(厚5cm)が貼り込まれた。(正面の矢板が見えるところが敷地奥のドライエリア)。
いよいよ地下室の躯体内に入る鉄筋が構造設計の通りに組まれる。
太い鉄筋は直径が2.2㎝あり、細いものでも1.6㎝という異例の太さの鉄筋が15cm間隔でメッシュに組まれ、更にそのメッシュは上下に20cmの間隔を保って二段に重ねて配筋される。
地下室底盤のコンクリートの厚みは30㎝を超えておりビル並みの配筋とした。
どんな地震が起きようともこれならびくともしない。
使われている鉄筋が大手製鉄メーカー出荷の伝票かを確認する。
各部各所の配筋検査も行う。
※断熱材について:1998年当時は設計上必要と考えて入れたのだが、弊社ではその後物理的な検証により不要と考えて入れなくなった。
省エネ基準や低炭素住宅の指針に基づいても2019年現在も不要としている。
ただし、断熱目的ではなく防音や吸音や防振目的で入れることはある。
なぜ不要か・・・。それは単純に施工精度が増したこと(無駄に土を多く排土しては工事費が嵩む=お客様の費用を無駄に出費することになるから)と「土」の物理的特性を理解できたからである。
結局、この断熱材による断熱効果はほとんどない!と判明した。
※この作り方ページを手本にして現在も当然のように断熱材を入れている工事会社さんには申し訳ございません。
8.配筋と型枠の建て込み
外型枠の矢板、さらに内側の断熱材から内側に最低5㎝の離隔をとって壁筋を配筋する。
太さ1.6㎝の鉄筋が15cm間隔でメッシュに組まれ、内外に15cmの間隔を保って垂直二重に配筋されている。
配筋検査は太さやそれぞれの間隔や継手およびコンクリート仕上げ面からの離れ(5㎝程度内側に入るように)など設計指示通りかをチェックする。
壁の配筋が終われば内側の型枠を建て、上階の床(下階の天井)の型枠を造っていく。
手前の白い枠はサッシ及び出入口用ドアが入る部分であり、この壁の手前が西側のドライエリアとなる。
サッシなどの開口部の四隅は力学的に弱いので、このコーナー部分に補強筋を入れるのが鉄則。
9.シート養生と型枠の支持
いよいよ内外部の壁の配筋が終わり内部の型枠が建て込まれた。
また、ドライエリアの部分を除いて上階の床(下階の天井)の型枠が造られた。
この床は天井の化粧仕上げとなるので傷をつけないよう、また、準備中の汚れなどが付かないようにシート養生をするなども必要。
型枠の内側にはコンクリートが流し込まれるので型枠が膨らまないように外側からガッチリと鉄パイプで支持しなければならない。
パイプの間隔は6.項のセパレーターの位置で決るが45㎝間隔が一般的である。
また、このセパレーターの位置はコンクリートの化粧仕上げの重要な要素である。
内部型枠が剥がされた時に縦横が整然と正確に揃うことで美しく見える工夫が必要である。
10.下階壁の中へ配筋
下階壁の中に床の配筋が呑み込まれるように配筋をしなければならない。
床の1/2または1/3の位置と外端部には梁を入れる。
この梁はこの床に載る建物などによって多少位置が変わる。
今回はコンクリート床の厚みを約30㎝とし床下(地下室天井面)に梁を出さない方法を採用した。
準備中は土を始め桟木・金物などいろいろな物が型枠内に落ちないよう注意を払う。
コンクリート打設前には型枠内部を全てチェックし落ちたものは必ず拾い出さねばならない。
これを怠るとこうした混入物が原因で漏水や構造的欠陥を生じる。
こうした混入物が3m~4m下の型枠内の止水部に入ってしまった時は最も除去が困難である。
最悪時はコンクリート打設後に当該箇所コンクリートを解体し補修する。
11.コンクリートの打設
コンクリートはJIS規格のコンクリートプラントからミキサー車で搬送する。
事前に「配合計画書」を提出させる。
これにはコンクリートに使われる砂や砂利やセメントの産地など重要事項が書かれている。
海砂は基本的に拒否し建材店のコンクリートも拒否する。
強度は指定強度以上とし現場でテストピースを採取し1週間後に所定強度のチェックをする。
コンクリートは一気に打たず、地下空間の内外の壁を2、3周まわる要領で的確に密実に打設する。
内部型枠を室内側断熱材と複合板型枠で兼用して打ち込む工法は前10項のコンクリート打設部型枠内の混入物点検が十分にできない時にコンクリート打設面や止水部分等の打設後の点検ができないので漏水や構造的欠陥を指摘できない。
よって、弊社では完全にコンクリート打ち放し仕上げ面を露出させ、目視、打診確認することにしている。
12.基礎の立ち上がりを造る
地下室のコンクリートの壁厚は約30㎝に及ぶのがご覧頂けるだろうか。
この床面の上にさらに地上建物の基礎の立上がりを造る。
コンクリートは発熱しなが ら硬化を始めるのでコンクリート打設後硬化しないうちに打設面を均さねばならない。
今回は前10項でも触れたが、床梁を床の中に内蔵させることで地下空間 の広がりを重視した。
上階に建物が載ってキッチンや浴室やトイレなどの水廻り(みずまわり)がレイアウトされ、それらの関係でコンクリート床のレベルを変 える場合もあるが、今回は木造床の懐を25㎝とることで浴槽下の配管関係をはじめほとんどの配管類を地下室内に出さない工夫をして段差を付けないフラッ トレベル設計とした。
床面の急激な乾燥によるひび割れは構造的に影響するので要注意である。
13.コンクリート打設面のチェック
的確に密実に打設されたコンクリートは美しく艶もある。
前11項でも触れたが、内壁面に内装を施す目的で「断熱材とボードの複合板」を型枠として打ち込んでしまうことはこうしたコンクリート打設面のチェックができない。
隠してしまえば中身は誰も見ることができないので漏水や構造的欠陥原因があっても気付かない。
何年かして漏水に気付き「剥がして見たら豆砂利だらけだった」と言う話しはよくある。
密実にコンクリートが打設できているかどうかの判断は表面を見てわかるので、隠してはいけない。
断熱材や内装を施工するのはこの後でも十分可能である。
チェックできないことは認めてはいけない。
14.床仕上げに関わる下地の施工
コンクリート床面を調整し床仕上げに関わる下地を施工する。
床面のレベル関係の打合せは重要だ。右手には地階から1階への内部階段の骨組みが造られている。
室内のコンセント・照明を始め、電話配管、インタホン配管、LAN配管、エアコン配線配管、除湿・換気設備、新鮮空気などの設備関係は設計に盛り込んであるので設計に従って設備していく。
同様にトイレ回りなどの給排水設備も着々と設備される。
大切なことは地下室内の環境を整備し、地上居室以上の採光・換気・除湿システムを実現するかである。
いかに快適に居住できるのかを追求してきた36年の結果(2019年現在)はこのように実現していく。
15.床面の仕上げ
いよいよ床面の仕上げに至る。
正面奥のさらに向こう側には東面のドライエリアがあり、この写真アングルからの距離でも15mは十分にある。
丸い穴の空いた壁面の向こう側は約8畳のオーナーデスクのコーナーがある。
また、右手階段の下がトイレであり、その奥には約7.5畳程度のミニキッチンコーナーと収納がある。
手前の大きな空間は約30畳あり左側壁面全体に書棚が作られる。
天井の高さは2.7mあるのだが空間が大きいのと比較するスケールとなる物が無いので空間の大きさがわかりにくい。
16.東のドライエリアの完成
東側のドライエリアである。
コーナーには曲面のガラスを採用し、連続して透明のガラスを入れた幅2.7mのサッシを連層にしている。
曲面ガラスのサッシの向こう側がオーナーデスクスペースである。
ドライエリア上部には鉄製のグレーチングがはめ込まれており、その上を人が歩行することができるようになっている。
光はもちろんのこと、雨や雪や風が入るので地上とほとんど変らない。
奥行きと幅は約9.0m×約2.2mある。床の仕上げ面はヨーロピアンタイルを採用した。
排水・換気計画やプランター給水用の水道なども設計に従って的確に設備しなければならない。
17.西側のドライエリアの完成
西側のドライエリアである。
こちらは東側と違ってガードされている。
鉄骨の階段は外部階段で地上からのアプローチになっている。
奥の濃紺の扉が地下の玄関である。
こちらのドライエリア上部にも東側と同様の鉄製のグレーチングがはめ込まれているが、この上にはワンボックス乗用車が載り駐車場の機能を持たせている。
こちらも光はもちろんのこと、雨や雪や風が入るので地上とほとんど変らない。
奥行きと幅は約7.2m×約2.5mある。
床の仕上げ面はヨーロピアンタイルを採用した。
できるだけ大きめのドライエリアを計画することで冬用タイヤなどの収納スペースにも対応した。
18.地下室の完成
誰よりも早く着目し、いくつもの地下室を手掛けて36年(2019年現在)。
夏涼しく、冬温かいという蔵に似た地下室の室内気候は周囲が完全に土に囲まれているという独特の保温性に起因する(地上部分は建物が載るので断熱は「土」同等と考えるが、土も建物も載らない設計では断熱材を検討する必要がある)。
また、防音・遮音・防振効果の面では地上階より優れていることは言うまでもない。
土地の有効利用の上でも、空間の機能追求の上でも、そして住人の生活活性化のためにもこれほど優れた「地下室」に着目しない手はないのである。
誰もが今までは「地下室」は暗いもの、ジメジメとして陰湿なものとして建築企画を言い出すことをためらったが、あなたの常識はこれらの事例を見れば少なからず変るはずである。
まとめ
ですから、
「完全で安心な地下室」はやはり正攻法でつくるのが一番!
それは、過去からの研究者が多く、技術者も多く、利用者も多いので幾多の時代をも乗り越える技術があるからなのです。
そしてどの時代も、緻密に正確に丁寧につくることで、200年後をそして家族の未来を作っていけるのです。