設計図は法律的に有効な重要書類

設計図は契約内容を線と文字で言語変換した重要書類


軽視される契約図面


このところどのような事案(リフォーム含む)でも図面が少ない、かつ単なる「民間契約書」で契約をしている発注者を見かけるが、とても恐ろしいことである。

結果、トラブルになっていることが多い。

「契約書」とは「約束を紙に書いた文字」なのだということで安心してしまうのだろうか?

けして「民間契約書」が悪いというのではないが、できればトラブル防止のために「(旧・四会連合会発行)工事請負契約書・同契約約款・仲裁合意書付き」をお勧めする。

こうした場合に気付くのは、契約の内容そのものが問題になるのだが、図面もマンガのような線画2、3枚で、工程表も無く、工事数量欄もすべて「一式」と書かれた合計見積書ならまだましで、きちんと明細など詳細見積りが書かれた見積書は皆無でプアーな見積書がほとんどである。

基本的に、そこには「設計者」や「設計監理者」としての国家資格を持った建築士資格者は介在せず、発注者と工事会社との間の2者で直接契約されることがほとんどあり、契約におけるチェックすらない。

というか、そもそも一生に何度も契約などすることのないお客様相手の工事契約なのだから「契約」のやり方(締結までのプロセス)自体ご存じないのだからやむを得ないといえる。

リフォーム工事などにおいては玄関先で建物を一見して紙ぺら1、2枚の見積書に数百万円の金額が書かれており、これを頼りに発注者から印をもらい「受発注」を成立させる不届き者もいる。

特に、足場に工事会社のシートを高々と掲げて広告塔になることを条件なら150万円値引きしますからという理由だけで300万円を線で消して150万円と書かれた「受発注書」に新聞販売店さんの勧誘さながらのサインをしてしまう発注者のなんと多いことか!

残念ながら、あなたの期待は裏切られ、実質工事費は100万円にも満たないことが多いのです。
あなたは契約の本質から間違えています!

リフォーム工事も含め10万円の契約でさえ、契約を甘く見てはいけません!!

無論、建替えや新築などもっと厳密なものでなければなりません。

契約の形態が正しいか否かのジャッジは、第三者としての「設計者」や「設計監理者」としての国家資格を持った建築士資格者に介在を依頼することが最も安全です。


契約書になぜ図面は必要なのか?


国家資格を持つ建築士資格者である「設計者」や「設計監理者」が作成する仕様書や設計図面(=設計図書といいます)は「契約書」の一部(同等)だということの認識が必要です。

小杉語録での「線は文字ほどにものを言い!」 がそのものズバリで、紙に書かれた線記号と数字の集合は日本のみならず世界共通の専門的業界言語が紙に書かれた「書面化された図面」なのです。

その「書面化された図面」は文字群と同じ効力を有する「契約書面」になるのです。

なので、一般の人々が外国語を学ぶのと同じように専門教育としての作図や製図能力を学びそれを表現できるようになれば、外国語が会話できるようになるのと同じで、世界中の建物を理解し、つくったり、表現したりと設計から工事などまで携われるわけです。

専門教育としての作図や製図能力を学習した人は技術者となって図面の解読や意図の伝達は図面を介せば可能なのですから文書(書面)の解読や意図の伝達と同じといえるのです。

特に、機械系をはじめ建築系や土木系の仕事を生業にする人たちは必ずと言ってよいほどその業界の図面が読めるように学習していますので、文字では書けないところまで図面で表記することは可能で、、逆に文字では書ききれないところまで読み取れるわけです。

つまり、どのような設計図にも形や大きさや色や材質や設置する場所や数量や精度が記録されるのでこれらが約束になるのですから図面を描く設計者は意図を以って文章を書くことと同じように図面を描いて「意思伝達」をしているので「図面は契約書の一部」として公的に法律的にも重要な書類となります。

ですから設計図は絶対に粗雑に扱ってはいけません。

となると、設計者の図面表現はとても大事になるわけで、そこには何を書かねばならないか、逆にそこには何が書かれていなければならないかの必然が生まれます。

では、この図面はどのようなものに、どのようなことに作用するのでしょうか?

 

始めから形が存在する「既成品」でさえ、ましてやゼロから考えられお客様の希望や要求が「空間」に盛り込まれた莫大なアイデアは逐次記録されていかねばならないし、そうした図面があるからこそ技術者はそれら図面に従って「空間」をきめ細かく丁寧に「ものの集合」として現実のものに造り上げて行かねばならないわけですから、図面は断じて軽視してはいけないのです。


何を約束するのか?


一般に、工事契約には契約書のほかに契約約款(仲裁合意書)、設計図面(仕様書含む)と見積書と工程表が添付されることが必要です。

確実性を担保するものとしては「仲裁合意書」は必須です。

しかしながら、値引き額の大きさに惹かれ、工事契約額が少なくなったという誤解に満足し、一見「契約書」に見える「受発注書」の存在に安堵して、ろくな図面もないような状況で「契約成立」してしまうところに気付かないところが恐ろしいのです。

これでは契約本来の効果的な「約束」はありません。

つまり、架空(希望・要求)のものを立体にする「約束」を図面(仕様書含む)する仕事人が設計者なのですから、それはプロに任せる「約束」の書面を図面化してもらうことが大事なのです!

さて、その設計者は「約束」を図面に書きますが、図面(仕様書含む)にはいろいろなことが網羅されます。

  1. 大きさ、長さから形状・機能の基本知識
  2. 色の指定や表面の仕上げの製品・商品技術
  3. 製品強度の指定や効果・安全や注意事項
  4. メーカーや品番での流通資材やその納期
  5. 作り方手順や工法、構造的力学的技術
  6. 断熱や省エネや木造耐火の知識などの技術
  7. 不動産知識やIT関連の技術知識
  8. 建築基準法や条例なども含めた民法などの法律知識
  9. その他総合的な知識など

設計はこれらを図面に網羅することで、「何をどこにどのようにしたいのかという約束」を作っています。

これらを熟知している設計者さんは国家資格を持つ建築士資格者の約半数くらいではないかと思います。

特に、5.や6.や7.まで熟知している設計者はその半数くらいでしょう。

擁壁や地下という土の中のことについては複合的な設計や工事になるのでさらに設計監理の経験者は少なくなります。

そうした点で弊社は設計事務所として設計の経験値も高く、現場(工事指導)の経験値も高く、どのようにしたら効果的に解決が図れるかを絶えず考えております。

この『効果的な解決』こそが、コストダウンの最大要因なのです。

例えば設計者といってもいろいろで、

  1. ハウスメーカーさんとの契約をしている設計者さんは一見お客様寄りに見えますがハウスメーカーさんと契約をしているので工事会社の社員設計者さんと同じように立場上強く指示することは少ないです
    どちらかといえば営業マンさんが現場に出ますが建築の詳細知識を持つ人は少ないです
  2. デザイン優先の設計者さんは納まり上無理な工事を要求する傾向が強くあとで問題が生じやすいです
  3. 構造優先の設計者さんは強度を追及するので構造部材寸法や鉄筋本数がかなり多くなりがちです
  4. 設計経験と現場経験が少ない若手の設計者さんは工事会社さん任せなので、監視や指導・指示ができません
  5. 工事会社さんの設計者さんは設計部隊の一員でかつ工事会社社員さんなので立場上なかなか強く意見が言えません
  6. 建て主(お客様)と直接契約をする設計者さんで工事会社にもハウスメーカーにも属さない意匠設計を主体業務とした構造や設備にも長けた総合的視野を持つ設計者さんはもっとも確かな設計者さんです
  7. などなど

これでは工事費は安くなるどころか、手戻りや完成後の改善費用の出費も出てきたりと結果的に高くなってしまう場合があります。

大事なことは、「効果的な解決を考えること」です。

それが本来の設計だと思うのです。

そうして考えたことをきちんと図面に残し、その図面に基づき職人さんに見積もってもらい、図面の通りに工事をしてもらうことです。

つまり、考える人が「効果的な解決手法」を持ち合わせない設計者だとしたら・・・

工事費の低減は難しいですし、おそらく工事費は逆に上がってしまうのではないでしょうか。

さて、あなたはどのような設計者さんに仕事を依頼しますか?

2016年1月8日投稿・2019年3月2日加筆・文責:小杉卓(一級建築士)